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東京地方裁判所 昭和59年(ヨ)2382号 決定 1985年7月31日

申請人

宮田直作

被申請人

エレクトロラックス・ジャパン株式会社

右代表者代表取締役

グンナー・クニーベルク

右訴訟代理人弁護士

元木祐司

上野正彦

主文

本件申請をいずれも却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

理由

一  申立

1  申請人

(一)  債権者は立川営業所勤務の従業員たる仮の地位を確認する。

(二)  債務者は債権者を昭和五九年一一月九日当時の職場・職務に復帰させよ。

(三)  被申請人は申請人に対し昭和五九年一一月分賃金未払分金二五万三五五四円を即時、毎月二五日に金三六万六〇〇〇円を仮に支払わなければならない。

(四)  申請費用は被申請人の負担とする。

2  被申請人

主文同旨

二  当裁判所の判断

1  当事者等

疎明資料によれば、被申請人は産業用及び家庭用清掃器等の販売等を目的とする会社であり、東京、立川、埼玉等に営業所を有している。申請人は昭和五七年八月二三日被申請人に雇用され、立川市曙町所在の立川営業所に営業部員として勤務していたことが一応認められる。

2  配転命令について

(一)  疎明資料によれば、被申請人は昭和五九年一一月二一日申請人に対し同月二四日付をもって埼玉県浦和市南本町二丁目三番八号所在の埼玉営業所勤務を命ずる旨の配転命令(以下「本件配転命令」という。)を出したことが一応認められる。

(二)  申請人は、本件配転命令は被申請人との間で採用時なされた申請人の同意なくして勤務場所を変更しない旨の合意に反して無効である旨主張するのでこの点について判断する。

疎明資料によれば、申請人は被申請人の求人広告に応募して雇用されるに至ったものであるが、その際の求人広告には勤務場所として、立川、横浜、東京と記載されていたこと、申請人としては居住地である立川営業所を強く希望し、採用の際なされた研修においても、立川営業所勤務の希望を被申請人の採用責任者に表明していたことが一応認められ、これらの事実によれば、被申請人が勤務場所を決定する際申請人の希望を入れて立川営業所勤務となったことが推認されるが、他方疎明資料によれば被申請人の就業規則八条には「会社は事業の都合で従業員に転勤又は転属を命じ、あるいは職務並びに職階の変更を命じることがある。前項の場合に従業員に正当な事由がなければこれを拒むことはできない。」との定めがあること、申請人は昭和五七年九月二三日付で被申請人の諸規程にのっとり命令を遵守し、誠実にその職務に精励する旨の誓約書を被申請人に提出していること、被申請人の行っている販売方法は各営業所で一般家庭に掃除器等に関するアンケート調査を電話で行い、その上で営業部員が各家庭を訪問し実演を行い顧客に販売するというもので、勤務地が変更したことにより営業部員の営業成績が著しく低下するものともいえないこと、被申請人は各地に営業所を有し、全国的規模での転勤は少ないものの昭和五七年度には一〇件程度の転勤があったことが一応認められ、また被申請人にとって特に申請人を営業部員として立川営業所のみで勤務させる特段の必要性も認められないことを考え合わせると、被申請人が申請人の希望を入れて立川営業所勤務を命じたのは採用後当分の間の勤務場所を示したにとどまり、将来申請人の同意なく勤務場所を変更しない旨の合意があったとはいえず、被申請人の前記主張は認められない。

(三)  以上のとおりであるから被申請人は労働契約に基づき申請人に対し労務指揮の一態様として勤務場所の変更を命じうるものといいうるが、右権限の行使は無制限に許されるものとはいえず、合理的制限に服すべきであって、その判断にあたっては配転に至る経緯とその必要性、配転により申請人が受ける不利益等を総合して判断すべきである。

そこで右の点について検討するに、疎明資料によれば次の事実が一応認められる。

(1) 森田直己(以下「森田」という。)は立川営業所に勤務する営業部員であったが、同人が以前田口志摩子(以下「田口」という。)に対し掃除機を売却したところ、昭和五九年一月ころ、田口の依頼により申請人が洗剤を田口宅に届けた際、申請人は田口に担当者の森田は既に退職した旨述べた。同年一〇月九日森田は申請人が自己の顧客である田口に対し右のような事を述べたことを聞き知り、申請人に事の真偽を確認したところ、申請人は田口宅へ赴いたことは認めたものの発言内容は否認したため憤慨し、立川営業所長の制止にもかかわらず申請人に暴行を加え、加療約一週間を要する左股関節、左下腿挫傷の傷害を負わせた。なお、森田の被害は着用していたワイシャツのボタンホールが多少破損した程度であった。そして同日申請人は森田を立川警察署に告訴した。その後立川営業所内で立川警察署による検証が行われたりした。

こうした事件が起きたことから営業所内の雰囲気もぎくしゃくしたものとなった。

(2) そこで被申請人は事態を収拾するため、昭和五九年一一月五日には申請人を、同月九日には森田及び申請人を呼び立川営業所長も含めて話し合いの機会を持ったが、その際、被申請人は、申請人に告訴を取り下げてもらった上で解決を図ろうとしたところ申請人は態度を硬化させ、立川営業所長の退陣をも要求するようになった。

そこで被申請人は森田及び申請人をいずれも他に転勤させることによって解決を図ることとし、右九日森田に対しては北九州営業所への転勤を命じ(その後昭和六〇年一月二一日付で宇都宮営業所勤務に変更)、申請人に対しては(イ)大井商品センター内勤社員として勤務、(ロ)営業部員として厚木営業所勤務、(ハ)営業部員として埼玉営業所勤務、(ニ)フルコミッションセールスとして製品販売の為独立のいずれかを選択するよう指示した。ところが申請人は右いずれをも拒否したため、被申請人は大井商品センター内勤社員としての勤務を命じた。その後被申請人は右業務命令では申請人が営業部員から賃金体系の異なる内勤者となって申請人にとって不利益となることから、同月二〇日営業部員として埼玉営業所へ勤務すべき旨の本件配転命令を出した。

なお申請人の営業成績は上位であったものの、他の営業部員の顧客を自己の顧客としたことや、契約をキャンセルした顧客に対し暴言を吐いて顧客から苦情が寄せられたこともあった。

(3) 埼玉営業所は浦和市内に所在し、申請人宅からの所用時間は待ち時間を除き約七〇分であり、通勤可能な距離にある。

以上の事実を基礎に検討するに、成程申請人は傷害事件の被害者であること、そして配転により新しい地で営業活動を行うことは従前の地での営業活動に比して営業成績が低下しうるであろうこと、また今までに比し通勤に時間を要することは認められるが、他方申請人が暴行を受けるに至った原因は申請人の言動に基づくものであり、傷害事件のために立川営業所の雰囲気がぎくしゃくしたものになったのであって、それ以前にも営業部員として好ましくない行為があったことも考慮して被申請人は職場秩序維持のために配転を行ったのであり、本件配転命令に一応の合理性が認められる上、配転先も通勤可能な営業所であって転居といった不利益もなく、また営業部員として赴くのであって前示販売方法をも考え合わせると申請人が本件配転により受ける不利益は必ずしも大きいものでないことが認められ、これら事情をも考慮すると、本件配転命令は合理的制限の範囲内にとどまっているというべく権利の濫用には該らないものと認められる(なお、申請人は、被申請人の労働基準法、商法違反の事実等の主張をするが、いずれも本件配転命令の効力に影響を及ぼすものとはいえない。)。

従って、申請人の本件配転命令の無効を前提とする申請部分は理由がない。

3  賃金請求について

次に申請人の賃金請求について検討するに、疎明資料及び審尋の結果によれば、申請人は昭和五九年一一月一〇日以降就労場所は立川営業所であることを主張してそれ以外の営業所には就労していないこと、申請人は昭和五九年一一月分の給与として基本給の全額である一五万三〇〇〇円(実際の支給額一〇万二五四六円)を支給されていること、歩合給部分はゼロとして支給されていないこと、賃金の支払は、賃金のうち業績手当は前々月二一日から前月二〇日までの分を当月二五日に、基本給及びその他の手当は当月一日から末日までの分を当月二五日になされていたこと、被申請人には、申請人に対して適用される営業職給与規程があり、同規程には一か月を二二日とし、欠勤した場合には一日につき賃金の二二分の一ずつ控除する旨定められていること、被申請人は右規程に基づいて賃金について欠勤控除を行いその結果昭和五九年一二月以降賃金の支払をしていないことが一応認められ右事実によれば申請人の昭和五九年一一月一日から末日までの基本給全額が支払われており(歩合給についてはその該当月に歩合があったことの疎明はない。)、また昭和五九年一二月分以降の賃金については、申請人は前示のとおり本件配転命令に従い埼玉営業所に就労すべきところこれを拒否して就労しなかったのであるから、同月以降分については欠勤として控除されても止むを得ないものであり(右給与規程が当然に無効ということもできない。)、従って就労していない申請人に賃金請求権は発生しないものといわざるを得ない。

以上のとおり、申請人の本件申請中賃金仮払いを求める部分は理由がない。

4  よって、申請人の本件申請はいずれも被保全権利について疎明がないというべきであり、保証を立てさせて疎明にかえることは相当ではないから、本件申請をいずれも失当として却下することとし、申請費用につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 遠山廣直)

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